競馬における「スピード指数」とは、異なる環境で行われたレース結果を、共通の尺度(数値)で比較するために考案された「走破タイムの偏差値」のようなものです。
1970年代にアメリカのアンドリュー・ベイヤーが確立した理論がベースとなっており、現代の競馬予想においては最もポピュラーで、かつ強力なファクターの一つとなっています。
競馬の走破タイムは、以下の要因によって大きく変動します。
- コース条件: 競馬場ごとの高低差やカーブのきつさ。
- 距離: 1200mと2400mでは走るペースが全く異なる。
- 馬場状態: 芝・ダートの違いに加え、雨による含水率や芝の摩耗具合。
- 斤量: 馬が背負う重さ(ハンデ)。
例えば、「東京芝1600mの1分33秒」と「中山芝1600mの1分34秒」では、どちらが強いのか単純比較できません。スピード指数は、これらのノイズを取り除き、「もし条件が同じだったら、どの馬が一番速かったのか」を数字で表したものです。
ほとんどのスピード指数は、そのレースを走った走破タイムに対して、以下の4つの要素を組み合わせて計算されます。
① 基準タイム
各競馬場・コース・距離における「標準的な勝ちタイム」です。これを「0」または、見やすくするために一定の基準値(例:80や100)を足して設定します。
② 距離指数(トラック係数)
距離による1秒の価値の差を補正します。
- 短距離: 1秒の差を大きく評価する(係数が大きい)。
- 長距離: 1秒の差を相対的に小さく評価する(係数が小さい)。
③ 馬場指数(馬場差)
良馬場~不良馬場では走破タイムに大きな影響を及ぼします。また、同じ「良馬場」でも、路盤が硬く時計が出やすい日と、荒れて時計がかかる日があります。その日の全レースのタイムを統計的に分析し、「その日の馬場は平均より何秒速かったか」を数値化して補正します。
④ 斤量補正
当然、重い荷物を背負うほど馬は走るのが大変になります。斤量を指数に加減点します。一般的には「1kg=1馬身(約0.2秒相当)」といった基準が用いられます。
- スローペースの罠: 競馬は「全速力で走り続ける競技」ではなく、駆け引きが存在します。超スローペースのレースでは、馬がそのレースを通して全力で走っていないため、能力よりも低い指数しか出ません。
- 適性の無視: 指数はあくまで「スピード」の数値化であり、その馬が「坂が得意か」「右回りが得意か」といったコース適性まではカバーしきれません。
- 出走馬の状態: 過去の指数はあくまで「過去」のものです。若駒の急成長や急激な衰え、またその時の仕上がり、調子による影響は、数字だけでは捉えきれない場合があります。
① 西田式スピード指数(日本スピード指数の原点)
基本概念
1992年に西田和彦氏が著書『競馬スピード指数の正体』で発表した、日本におけるスピード指数の「開祖」と言える存在です。
それまでの競馬予想は「上がり3ハロンの速さ」や「前走の着順」といった断片的な情報に頼っていましたが、西田氏はアメリカのアンドリュー・ベイヤーが考案した理論を日本競馬(芝レースが主流、斤量差が大きい)に適合するようカスタマイズしました。
最大の目的は、「異なるコース、異なる距離、異なる馬場状態で行われたレース結果を、共通の数値で比較可能にすること」です。
算出方法
西田式の計算式は、以下の計算式で表されます。
(コース基準タイム – 走破タイム)× 距離指数 + 馬場指数 +(斤量 – 55)×2+80
- 基準タイム: 各競馬場・距離・コースごとに設定された「平均的な勝ちタイム」。これが0地点となります。
- 距離指数: 「距離が長いほど、1秒の価値は軽くなる」という考えに基づいた補正値です(例:1200mなら1.0、2400mなら0.7など)。
- 馬場指数: その日の馬場の「速さ」を数値化したもの。当日の全レース結果から逆算して、馬場が何秒速い(遅い)かを算出します。
- 斤量補正: 「斤量1kg=指数2ポイント」と定義。基準を55kgとし、重ければ加点、軽ければ減点します。
- 80(基準値): 数値がマイナスにならないよう、下駄を履かせる定数です。
ポイント
- 客観性の徹底: 算出に「人間の感情」が入り込む余地がありません。すべてが数字で処理されるため、統計的な信頼性が非常に高いのが特徴です。
- 能力の天井を把握: 過去3走程度の最大指数を見ることで、その馬が「本来持っているポテンシャル」を浮き彫りにできます。
- 展開の盲点: 西田式は「走破時計」をベースにするため、超スローペースで「誰も全力で走っていないレース」の場合、指数が極端に低く出てしまいます。この「数字の裏」にある展開を読み解く必要があります。
➁JRDB:IDM(インデックス・メモリー)
基本概念
JRDB(競馬データバンク)が提供するIDMは、西田式が確立した「時計」の概念に、「記憶(Memory=現場の視点)」を融合させた進化系指数です。
西田式が「結果として出た時計」を重視するのに対し、IDMは「なぜその時計になったのか?」というプロセスの査定に重きを置いています。「不利があって時計を詰めることができなかった馬」を、数字上で救い上げることを目的としています。
算出方法
素点=(基準タイム―走破タイム)×距離差×10+馬場差+基本値
記憶要素=出遅+不利+位置取り+レース内容
- 素点: 西田式に近いロジックで算出されたタイム偏差。
- 記憶要素(Memory): 全レースをスタッフが目視し、「致命的な出遅れ(-2点)」「直線で完全に前が壁(-3点)」「4角で大きく膨らむロス(-1点)」など、タイムに現れないロスを数値化して足し戻しています。
- 入り・出・まとめ: 入り(テン): 前半600mのラップ適性 出(上がり): 後半600mの末脚のキレ。 まとめ: レース全体の質。これらを個別に数値化し、IDMの信頼性を裏付けています。
- 直前補正: レース当日のパドックでの馬体気配や、騎手との相性、厩舎の勝負気配を加味して、最終的な「IDM調整値」が完成します。
ポイント
- 「次走への期待値」の可視化: 前走で「不利があったのに好指数を出した馬」は、IDMでは非常に高く評価されます。これは次走での激走を予見する強力な武器になります。
- 展開不向きの救済: スローペースの瞬発力勝負で、時計は遅くても「出(上がり)」の数値が異常に高い場合、能力が高いと判断します。
- 主観の介在: 専門スタッフの査定が入るため、完全な自動計算ではありません。その分、データの奥にある不利を捉えることができますが、明確な根拠が不明。
③競馬ブックスピード指数
基本概念
日本最古の週刊競馬雑誌であり、圧倒的な取材網を持つ「競馬ブック」が提供する指数です。西田式のような「個人が再現可能な計算式」とは異なり、保有する膨大な歴史的データと、現場トラックマンの「相場観」をパッケージ化した、汎用性の高い指数と言えます。
算出方法
公式な計算式は非公開ですが、概ね以下のロジックで構成されています。
- クラス別基準タイム: 過去数十年におよぶ全レースデータから、「この条件のオープンなら〇分〇秒が平均」という基準値を極めて精密に算出しています。
- 現場トラックマンによる馬場補正: 他の指数がレース終了後に計算で馬場差を出すのに対し、ブックは現場で「内が荒れている」「今日は前が止まらない」といったリアルタイムの情報を補正値に組み込みます。
- スケール感: 指数100を「オープン・重賞級」の基準とし、3勝クラスなら95、2勝クラスなら90といった具合に、クラスごとの能力的な壁を数値化しています。
- 通過順位と着差: タイムだけでなく、どのような位置取りで、2着に何秒差をつけたかという「決定力」も指数に影響を与えます。
ポイント
情報の網羅性: 紙面では指数の横に「上がり3ハロン」「通過順位」「調教評価」が並んでおり、これらをセットで見ることで「展開・能力・調子」の三位一体の予想が可能になります。
「クラスの壁」の判断: 「前走の指数が98だから、昇級しても即通用する」といった、クラスをまたいだ能力比較が非常に容易です。
安定感と信頼性: 取材スタッフが馬場の変化を常に監視しているため、大雨による急激な馬場悪化など、計算式が狂いやすい場面でも精度が落ちにくいのが強みです。
- クラス別基準タイム: 過去数十年におよぶ全レースデータから、「この条件のオープンなら〇分〇秒が平均」という基準値を極めて精密に算出しています。
- 現場トラックマンによる馬場補正: 他の指数がレース終了後に計算で馬場差を出すのに対し、ブックは現場で「内が荒れている」「今日は前が止まらない」といったリアルタイムの情報を補正値に組み込みます。
- スケール感: 指数100を「オープン・重賞級」の基準とし、3勝クラスなら95、2勝クラスなら90といった具合に、クラスごとの能力的な壁を数値化しています。
- 通過順位と着差: タイムだけでなく、どのような位置取りで、2着に何秒差をつけたかという「決定力」も指数に影響を与えます。
代表的な3つのスピード指数について表でまとめてみました。
| 項目 | 西田式 スピード指数 | JRDB(IDM) | 競馬ブック スピード指数 |
| 主軸 | 走破タイム(純粋) | タイム+不利・記憶 | タイム+現場の馬場感 |
| 補正 | 計算式による客観性 | 専門スタッフの加減点 | トラックマンの観察眼 |
| 強み | 誰でも再現可能な透明性 | 不利や馬場差を網羅 | 長年の蓄積データと信頼性 |
| 弱み | 展開(スロー)に弱い | 算出者の主観が入る | 計算式が非公開(ブラックボックス) |
走破タイムだけではその馬の実力が計れないという観点から、
精度を上げるため「どう重みづけをするか」がポイントになってきます。
しかしながら、指数を算出する人や、トラックマンの主観によって手動補正を入れている場合が多く、
その良し悪しが一定でないことから、結局は根拠のない数字になってしまっている印象があります。
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